サークルに参加する
開設日:
2010/01/10
参加者:
491
希望メンバー:
だれでも!
よく来る時間帯:
いつでも!
募集年齢:
何才でも!
入会キー:
不要
  • このサークルを通報する

  • 募集中

カテゴリ:自作小説/ポエム

ひとことニュース

連載&読切・携帯小説専門サークル 『創話館』

■一般小説■

魔弾のコルト - 1

  • ハンゲ
  • 2017/07/02 08:07update

harold21

『アナタはもう自由よ。好きに生きなさい』

 記憶の中の女は、泣き腫らした目でこちらを強く見据えて言った。
 汗や涙、泥に塗(まみ)れた頬に張りつく赤髪をそのままに。少女としてあどけなさを残す表情を無理矢理抑えつけ、気丈に振る舞っている。
 いまにもまた泣き出しそうな顔で。自分の居場所を奪ったのは彼女であるのに。
 それでも自分は彼女を恨む事ができないでいた。
 彼女の居場所を奪ったのは、他でもない自分の大切な人。
 未だ砂埃の治まらない地面に仰向けになっている少女は、空っぽの夜空を見上げる。
 今の自分には彼女の気持ちが痛いほどに分かる。失うモノの悲しみが。
 奪ってしまったことの重圧が。

『元気になって、もっと強くなって、そしたら――』

 視界の中の女は己を救った男の腕に抱かれ、泣き笑いの表情を作る。

『私を殺しに来なさい。私はそれまでに私の国を復興させるわ』

 少女は途切れそうな意識の中で首を傾げた。
 彼女は矛盾している。自由に生きろと言ったり自分を殺しに来いとも命じている。それでも、少女の思考はそれより深みに進む事はなかった。そこで意識が途切れたからだ。





 かつて、青の星と呼ばれた星は見る影ものなく。表面積の八割の自然が消滅した世界。人は人を殺すために兵器や魔導を開発し、人が人を殺す為に自然を切り拓いていった無惨な結果がこの世界だった。地上に住む人々は、気温や天候を人の手により管理された巨大シェルターの中での生活を余儀なくされた。シェルターの外には広大な砂漠が広がっており、急激な環境変化の影響で突然変異を起こした動植物が魔物となって猛威をふるっている。一歩シェルターを出れば命の保証は無い。皮肉な事に、人々は滅びに瀕しようやく一つに纏まった。人類が誕生してから続く戦争や紛争は世界の人口が半分になったところで終結を迎え、未曾有の自然災害に対応するべく団結した。それが、人類の歩んできた過(あやま)ちの歴史であり、現代になってようやく人類と自然が均衡を保ち始めたのだった。
 そんな中、一人砂漠を歩く姿がある。
 およそ砂漠越えをするような格好ではなく。真っ黒な、拘束具のような衣装を身に纏う姿は華奢で小柄。フードの下の白い肌は少女のものだ。更に目を引くのは横一文字に裂けた鼻の上の傷だ。更に頬や目蓋の上などいたる所に深く刻まれた傷が痛々しく残っている。昨日今日できた傷ではない。傷の上に傷を重ねたような、少女の過酷な歴史を物語るように刻まれていた。恐ろしい事に、気温40℃を超える猛暑の中でも少女の顔には汗一つ浮かんでいない。まるで暑さを感じていないかのような無表情で正面を見据えていた。
 もう少しすれば、町が見えるだろうか。
 そんな事を気軽に考えているのかもしれない。少女はいったい何処から来て何処に向かおうというのか。その軽装からは想像もつかない。

「…………」

 ふいに、少女が歩みを速めた。
 その足が向く先には砂漠の唯一の安息所、大きな岩場が日陰を作っていた。どこからか振ってきたのか、それとも地中より隆起してきたのか、少女の身長の何倍もの大きさの岩が重なり合いできた日陰は暑さを凌ぐには充分なスペースを有していた。
 しかし、少女の顔に安堵の色は無い。仕切りに視線を周囲に走らせている。
 背後で、数センチの砂柱が立っているのが見えた。砂の中から風が吹き上げているかのように。ソレは一つではない。二つ、三つと砂柱が立ち地面を不規則な動きで移動している。

「――――」

 少女の口が言葉を形作る。それは確かに言語であったが常人が聞き取り理解できる言葉ではなかった。少女が早口に何かを捲し立て、黒衣の中に手を忍ばせたその時。

 背後で砂が爆ぜる音がした。

コメント(2)

harold21

  • ハンゲ
  • 2017/07/02(日) 08:08

 その時少女が目にしたのは巨大なクチバシと、サボテンの棘のようにビッシリと生えた無数の歯だ。振り向きざまに身を揺らし、回避行動とするとクチバシの主が風切り音と共に横を掠めていく。少女はその後ろ姿を見送る。
 サンドフィッシュ。砂を泳ぐ魔物だ。フィッシュとあるが魚ではなく、トカゲから変異、進化したものだ。砂の中を泳ぐためにラグビーボールをより鋭角化したようなフォルムとなり手足が退化した名残りのようなヒレが左右に二つずつ生えている。
 群れで活動し砂上の動く生物を見境なく襲う、全長1メートル程の凶悪なハンターだ。
 砂魚は攻撃が外れると直ぐに砂の中に身を隠し、また砂柱を上げて少女の周りを周回し始めた。他の二匹もタイミングを窺うように周回を始める。
 しかし、突然とも言える魔物の出現に少女が顔色を変える事は無かった。歩みを止め口元は未だに動き続けているし、手は黒衣の中に忍ばせたままだ。瞬(まばた)きすらしていない。
 再び砂の爆ぜる音と共に砂魚が飛び出してくる。
 少女は音の方向に向かって手を振り抜いた。指先に挟むように持っていたのは直径1センチほどの鉄の針で、指先から放たれた鉄針は襲い来る砂魚の背に突き刺さる。
 ギャ、と短い声と共に地面に落ち、二匹目三匹目が間髪入れずに飛びかかって来た。

「ん」

 少女は身を回すと同時に、黒衣から長く伸びた裾を標的に叩きつける。先端に重りを仕込んだそれは見事に飛んできた二匹を叩き落とし、すかさず少女は鉄針を叩き込んだ。ビクンビクンと地面を跳ねる魔物に対し、少女は手をかざす。

「――」

 短く言葉を切る。
 すると 手の先から魔物に突き立った鉄の針目掛けて白い光が走った。
 バチリという音と共に焦げた匂いが上がり、砂魚がひと際大きく跳ねると力尽きたかのように動かなくなった。一瞬の出来事だ。

harold21

  • ハンゲ
  • 2017/07/02(日) 08:09

 少女は砂魚の死体を一つ掴むと鉄の針を抜いた。赤くトロッとした血液が流れ落ちるのを口で受け止めた。砂魚の血は水分量が多く直ぐには固まらない。味はひどいが喉の渇きは癒せる。
 ケプッ。喉の奥で血の泡が弾ける感覚を呑み下し。少女は残る二匹を引き摺って日陰へと歩みを再開した。あの日陰で肉を剥いで食糧にしよう。足を止め作業をする場所は選ばねばならなかった。
 しかし、その安息の場には先客がいた。

「よ、よぉ、そこの、……お嬢ちゃんかい?」

 巨大な岩と岩の合わせ目に背中を預ける形で座っているのは鍔広の帽子を被り、空っぽのホルスターを身に付けた男だ。男は胸から血を流した状態で少女に虚ろな瞳を向けていた。

「……ん? 男、か? まぁ、どっちでもいい」

 少女は直感的に男の死期を感じ取った。男は震える手を苦しそうに持ち上げ、己の右を指差す。釣られて視線を向けてみれば、

「そ、そこに男が倒れているだろ。見てくれねぇか」

 少し離れた日陰の外に別の男が倒れている。帽子の男と格好が似ていた。少女は言われた通り日陰から出て倒れている男に歩み寄った。
 目に入ったソレは男の死体だ。
 とっくに事切れていたのだろう。地面に接している肌は焼けただれ、開きっぱなしの目が水分を失って濁りシワシワと萎れている有り様だ。少女は見てきた事実をそのまま男に伝えた。

「死んでる」

「――ッ! クソッ!!」

 言うや否や、男が自分の後頭部を背後の石壁に打ちつけた。そしてその反動で前のめりに倒れると拳を何度も地面に振り下ろした。

「アイツ! 俺の親友を殺しやがった……!」

 男の瞳から零れ流れ続ける水分を、少女は勿体無いものを見る目で眺めていた。

TOP